百円読書(税別)

百円で買った本を読み、ノートします。

#3 マンスフィールド『マンスフィールド短篇集』★★★★

f:id:hachiro86:20181211215909j:plain

 

平穏に見える人生にも、必ずや小さな「裂け目」や「ほころび」がある。自分が見えていた世界だけが世界ではないことを突然発見したり、平穏が決して当たり前のものではなく、実は微妙なバランスの上にたまたま成り立っていたにすぎないことに気づく時がくる。本書の著者マンスフィールドは、この「裂け目」や「ほころび」を描く達人である。

 

そのためには、まずは普段の、平穏で、平凡な風景や心理を丁寧に描写する。この部分が丁寧であり、繊細であればあるほど、見えていた風景が変わった瞬間との落差が生じる。マンスフィールドはここに手を抜かない。「湾の一日」冒頭の朝まだきの描写など、すばらしい。

 

周辺を丁寧に描き込めば、肝心の「裂け目」「ほころび」は、さらりと描く程度で十分に通じる。大事なのは過不足のないこと。それでいて、それまでとわずかながら違ったものの見え方や感じ方に切り替わったと、的確に伝えることが大事なのだ。「園遊会」での、庭の外で目にした光景。「ブリル女史」の、少年少女の心無い一言。わずかなきっかけが、物の見え方や人の人生をがらりと変える。

 

34歳で早逝したにもかかわらず、マンスフィールドの作品は、英国文学の最良の遺産のひとつになっていると思う。ちなみに彼女の出身地はニュージーランドなのであるが。