百円読書(税別)

百円で買った本を読み、ノートします。

#5 宮部みゆき『初ものがたり』★★★

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今や流行作家どころか大御所になってしまった宮部みゆきだが、本書は単行本初版が平成7年だから、初期とは言わないがまだ売れっ子になり始めたころの作品だ。ぴしりと結構が決まっていて、描写も過不足なく引き締まっている。それでいてじんわりとした味わいがあり、ふくらみがある。思い切った「省き」で余韻をつくる手際など、僭越ながら、今こそ思い出したほうがよいのではないか。

岡っ引き「回向院の茂七」の存在感がどっしりと決まっているので、手下の糸吉や権三が自由に動き、謎めいた屋台の親父や予知能力をもつ子ども「日道」などの奇妙なキャラクターも、異彩を放ちながらしっかり収まっている。ミステリーとしてはそれほどひねったつくりではないが、短い中にしっかり起伏をつくって落とす手管はさすがに巧い。個人的には、宮部みゆきはこの頃の時代モノの短編が一番良いと思っている。