百円読書(税別)

百円で買った本を読み、ノートします。

#8 内村鑑三『後世への最大遺物・デンマルク国の話』★★★★

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本書に収録された2篇は、いずれも著者の講演録がベースになっている。そのためたいへん読みやすく、著者のメッセージがストレートに伝わってくる。冒頭では軽口を交えて聴衆を笑わせながら、徐々に語りの熱量が増していき、最後は聴き手(読み手)を巻き込むような熱弁となる。さぞ魅力的な講演だったことだろう。

「後世への最大遺物」では、人は後世に何を残していけるのか、というテーマを論ずる。金、事業、思想と畳みかけた挙句に出てくるのは、その人の生き方そのもの。人生そのものが「後世への最大遺物」であり、われわれはなにを後世に遺そうかと考えるよりも、自分自身がそのような人生をこそ送るべきなのだ。

トマス・カーライルは数十年をかけて書いた原稿を誤って燃やされてしまうが、失意を乗り越えて再び書き直した。ここで大事なのは、書かれた著作そのものではない。数十年かけて書いたものが燃えてなくなれば、誰でもがっくりきてしまい、書き直そうという気力は湧いてこないのがふつうだろう(私など、ブログの書きかけの記事を誤って消してしまった程度のことでも、やる気をなくし、再び書き直そうという気にはならない)。しかしカーライルは、あえてそこを踏みとどまり、我慢し、書き直した。その生きざまこそが、後世に何かを伝えるのである。

もうひとつの「デンマルク国の話」は、最近はやりの「先進福祉国家デンマークに学べ」のようなものではない。これもまた、戦争に負け、国土が荒廃したデンマークがいかに立ち直り、立派な再建を果たしたことを語るものである。

「国の興亡は戦争によりません、その民の平素の修養によります。善き宗教、善き道徳、善き精神ありて国は戦争に負けません」(p.86)

もちろんこれは戦争礼讃ではない。愚かしい特攻精神とも真逆のものだ。だが、敗戦後の日本がなぜ復活できたのかを、この一文は伝えてはいないだろうか。そしてまた、戦争に負けずとも、これらの修養を国民が備えなくなった時、国は衰亡する、ということを。