百円読書(税別)

百円で買った本を読み、ノートします。

#10 鈴木秀夫『森林の思考・砂漠の思考』★★★

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冒頭で著者が指摘する、日本とヨーロッパの町のちがいがおもしろい。ヨーロッパの町は、高いところから見下ろすとたいへん美しい。一方、日本の町のほとんどは、上から見てもあまり美しくない。

ところが家の中に入ると、ヨーロッパの建物は「おそろしく不細工で、薄暗く、無趣味」なのが一般的なのだという。一方、日本の場合は一歩中に入ると「小奇麗に物が配列されて、情緒豊か」なのだそうだ。著者はこれを、ヨーロッパの「砂漠的思考」に対する日本の「森林的思考」が反映したものだという。

「砂漠的思考」は、文字通り砂漠での生活で培われた思考形態だ。砂漠では、一面の砂景色の中にあって、見えない範囲にあるオアシスを探し求める必要がある。その時に必要なのは、見えない部分も含めて俯瞰的に捉える「上からの」視点であり、不確実であってもどこかで決断しなければならないその決断力である。一神教はこうした砂漠的思考が高度な文明の中で高められ、天上の視点が唯一絶対の神となったものだという。

一方「森林的思考」は、あくまで地上の人間の視点で考える。砂漠と違って、森林には情報が多い。方向を間違うと渇き死にすることはないが、その分、目に見える膨大な情報を相互比較し、検討する必要が出てくる。そこから生まれるのが多神教的な視点である。

牽強付会と思われるだろうか。確かに、細かいことを言えばいろいろ気になることは多い。そもそも冒頭で日本は森林的思考の国と言っておきながら、後半では森林的思考から砂漠的思考への移行を論じているあたり、矛盾しているようにも思える。だが、こうした細かい事実の突き合わせに拘泥することが、著者に言わせれば「森林型思考」なのだ。それに比べ、思い切った判断で大理論を打ち立てようとした著者は、砂漠的思考の学者であるということになるのかもしれない。

個人的な趣味で言えば、細かいことは気にせず一刀両断するこうした思考は嫌いではない。こういう理論は正しいかどうかを問うよりも、世の中を見るための一つの見方、切り口を提供してくれていると考えるのが良いのである。