百円読書(税別)

百円で買った本を読み、ノートします。

#11 三島由紀夫『近代能楽集』★★★★

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能楽についてはまるで明るくないのに、こんなの読もうとするのもどうかと思うが、読んだだけではどのへんが「能楽」なのかよくわからなかったというのが正直なところ。むしろ現代戯曲として秀逸な作品が多かった。

卒塔婆小町」は、オリジナルが小野小町の老いた姿という設定だが、本作ではそれがそのまま近代日本に移される。80年前に出会った深草少将は、名前もそのままでなんと参謀本部の軍人さんだ(ちなみに老婆小町が座っているのは、オリジナルが「卒塔婆」なのに対して公園のベンチ)。さらに小町は、少将の怨念から解放され仏の道に入るのではなく、ワキ役の詩人を殺して自らは百年後の恋を待つのである。

「綾の鼓」も秀作だ。舞台の上手と下手を分けての対比構造は能楽というより現代演劇。恋い焦がれる相手から鳴らない鼓を渡されて「この鼓が聞こえたら・・・」と告げられる老人は、からかわれたことを知って窓から身を投げる。亡霊となって甦り、鼓を鳴らして女性に迫るのだが、そのラストは「卒塔婆小町」同様の「数足らず」。こちらは原作がどうなっているのか知らないので比較のしようがないが、一見近代劇に見えて、亡霊の登場で一挙に能っぽくなるのがおもしろい。

時代も場面もがらりと変えて(「葵の上」が深夜の病院、「道成寺」はでかい鐘が古道具屋のタンスに代わり、「弱法師」はなんと家庭裁判所の調停室)、一見現代風を装いつつも、亡霊やら人の怨念やらと普遍的な要素が核にあるので、実はものすごく古典的で「強い」作品になっている。実際に能舞台で演じられたものもあるようなのだが、会話もまるっきり(書かれた当時の)現代言葉なのだが、能のあのテンポとゆらぎの中で再現できるものなのだろうか?