百円読書(税別)

百円で買った本を読み、ノートします。

#12 丸谷才一『夜中の乾杯』★★★

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こういう人と一緒にお酒を飲んだら楽しいだろうな、と思えるような、極上の「雑談」集。

古今東西にわたり膨大な知識と教養があって、それをひけらかすことなく極上の部分だけを切り取って、うまく調理して差し出してくれる。ちなみに、「夜中の乾杯」だけあって猥談もけっこう入っている。特に「褻語考」に出てくる「紫色雁高」(シシキガンコウ)にはびっくりだ(これ、何のことだと思いますか?)。

「養生訓」でアレの回数を指南した貝原益軒が実は品行悪かったという話(「男大学」)も面白い。夫の益軒が旅先で女遊びばかりするので妻が必ず同行していたが、それがかえって「文雅を愛する夫婦の風流な旅行のやうに言はれて、美談あつかひされた」そうだ(ただし、妻のほうに淫乱の気があって、浮気を心配した夫が連れて行ったという説もあるようだ。どっちもどっち、ということか)。さらに「性的時代」ではなんと日本史上の登場人物のホモセクシュアルに焦点をあてており、これはかなり酒が進んでいないと難しい種類の雑談だろうが、面白い。

もちろん猥談以外の話もたくさん収録されており、どれも興味を惹かれるものばかり。語り口、組み立て、話題の転換の仕方、オチのつけ方まで、いずれも名人芸に酔わされる。なお、本好きの人間としては、「蔵書印」で読書についてこんなふうに書いてあったのが印象的だった。丸谷才一でなければ書けない一流の諧謔であろうが、まったく同感。「読書離れ」を憂え、スマホばかりでみんな本を読まないと嘆く人が多いが、そんなに読書を「立派な事」としてまつりあげないほうがいい。

「本を読むのが好きだなんて人間は、まつたく例外的な存在で、そんなものに関心がない人が普通なのである。あるいは、読書といふのは一種の悪癖であつて、そんな悪癖は持合せてゐない方が人間として健全なのである」(p.154-155)