百円読書(税別)

百円で買った本を読み、ノートします。

#6 『ホセ・ムヒカ 世界で一番貧しい大統領』★★★

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実に変わった大統領だ。ゲリラ出身で投獄経験あり。車に乗る時は必ず助手席。儀礼を嫌い、自分で料理もし、報酬の大部分は寄付してしまい、そしてネクタイは絶対にしない。そんな男が、国民から「ペペ」と親しみを込めて呼ばれ、5年にわたりウルグアイの大統領を務めたのだ。

 

本書は、19年にわたる密着取材の成果を凝縮し、元大統領の人となりを浮き上がらせた秀作だ。面白いのは、大統領が特定のイデオロギーにまったく染まっていないこと。むしろこの人は、徹頭徹尾リアリストなのではないか。拠って立つものは「一般常識」。報酬の大部分を寄付してしまうのは、庶民と同じ「生活スタイル」を維持したいから。

 

「一般市民と統治者の間にアパルトヘイトが生じることがある。生活スタイルというのは一見取るに足らないことのように見えるが、そうじゃあない。そこには政治家に対する不信感もある。国民は、大統領になるやつはみんな同じだと思っていて、最後には政治にものすごい不信感を持つようになるんだ」(p.101 ホセ・ムヒカ発言部分)

 

だから、タイトルの「世界で一番貧しい」という表現は、実はやや不正確。貧しいのではなく、そうした生活スタイルを意識して維持しているのだ。国民の意識との乖離が生じないように。特定のイデオロギーではなく、国民の生活に足場を持てるように。

 

 

#5 宮部みゆき『初ものがたり』★★★

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今や流行作家どころか大御所になってしまった宮部みゆきだが、本書は単行本初版が平成7年だから、初期とは言わないがまだ売れっ子になり始めたころの作品だ。ぴしりと結構が決まっていて、描写も過不足なく引き締まっている。それでいてじんわりとした味わいがあり、ふくらみがある。思い切った「省き」で余韻をつくる手際など、僭越ながら、今こそ思い出したほうがよいのではないか。

岡っ引き「回向院の茂七」の存在感がどっしりと決まっているので、手下の糸吉や権三が自由に動き、謎めいた屋台の親父や予知能力をもつ子ども「日道」などの奇妙なキャラクターも、異彩を放ちながらしっかり収まっている。ミステリーとしてはそれほどひねったつくりではないが、短い中にしっかり起伏をつくって落とす手管はさすがに巧い。個人的には、宮部みゆきはこの頃の時代モノの短編が一番良いと思っている。

 

 

 

 

#4 中村靖彦『ウォーター・ビジネス』★★★

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人は石油がなくても生きていけるかもしれないが、水がなければ生きていけない。にもかかわらず「地球上に存在する水を風呂桶一杯の水と仮定すると、人間が自由に使える水はわずか一滴」(p.24)。したがって、水をめぐる問題は今も世界中で起きているし、これからますます増えていくだろう。

初版2004年だが、ボトル・ウォーターをめぐるウォーター・ビジネスの拡大から、水資源の争奪や過剰取水の問題など、今も続く水をめぐる課題を的確にまとめている。最近、それほど大騒ぎになることもなく国会を通過してしまった水道法改正に関しても、水道民営化について一章を割いて論じており、そこには水ビジネスがらみで必ず登場してくるヴェオリア社の日本オフィスも載っている。

水は食料の生産にも使われる。日本よりずっと降雨量の少ないアメリカでは、地下水をくみ上げて灌漑に使っている。そうやって作られた穀物が家畜の餌に使われ、日本人の口に入るのだ。牛丼一杯が作られるのに使われる水の量はなんと2トン。食糧輸入大国である日本は、豊かな降雨量にもかかわらず、水の輸入大国でもあるのだ。

#3 マンスフィールド『マンスフィールド短篇集』★★★★

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平穏に見える人生にも、必ずや小さな「裂け目」や「ほころび」がある。自分が見えていた世界だけが世界ではないことを突然発見したり、平穏が決して当たり前のものではなく、実は微妙なバランスの上にたまたま成り立っていたにすぎないことに気づく時がくる。本書の著者マンスフィールドは、この「裂け目」や「ほころび」を描く達人である。

 

そのためには、まずは普段の、平穏で、平凡な風景や心理を丁寧に描写する。この部分が丁寧であり、繊細であればあるほど、見えていた風景が変わった瞬間との落差が生じる。マンスフィールドはここに手を抜かない。「湾の一日」冒頭の朝まだきの描写など、すばらしい。

 

周辺を丁寧に描き込めば、肝心の「裂け目」「ほころび」は、さらりと描く程度で十分に通じる。大事なのは過不足のないこと。それでいて、それまでとわずかながら違ったものの見え方や感じ方に切り替わったと、的確に伝えることが大事なのだ。「園遊会」での、庭の外で目にした光景。「ブリル女史」の、少年少女の心無い一言。わずかなきっかけが、物の見え方や人の人生をがらりと変える。

 

34歳で早逝したにもかかわらず、マンスフィールドの作品は、英国文学の最良の遺産のひとつになっていると思う。ちなみに彼女の出身地はニュージーランドなのであるが。

読書論1 わたしの読書の出発点

 

本の読み方は、本の選び方にはじまる。選び方にもいろんな方法はあるが、王道はやはり「芋づる」だと思う。今まで読んできた本が、次の本を決めてくれることが圧倒的に多い。見当がつきやすいし、だいたいまったく知らない著者や分野の本は選びようがない。

 

もっとも、ほとんどの人は、大人になっていきなり本を読み始めるワケではない。大人になってからの読書は、実は子どもの頃に触れた本が下敷きになっている。

 

となると、気になるのは、自分自身、子どもの頃にどんな本を読んでいたか、ということだ。それも、ごく小さな、せいぜい幼稚園児くらいのころ。もちろん、そんな小さなうちは、自分で本を選ぶなんてことはまずできない。たいていは親や周りの人が選んでくれる。もちろん自分では読めないから、「読み聞かせ」をしてもらうことになる。

 

そんな「選んでもらった本」が、案外自分の読書のルーツになっているものだ。そこで今回、あらためて、どんな本が最初の読書体験として記憶に残っているか、つらつら思い出してみた。なかで表紙や中身のイメージがすぐに思い浮かぶ本は、次の3冊だろうか。

 

1冊目。

 

はらぺこあおむし エリック=カール作

エリック・カール不朽の名作『はらぺこあおむし

 

2冊目

からすのパンやさん (かこさとしおはなしのほん (7))

 

いろんなパンが出てきて楽しかったかこさとし『からすのパンやさん』

 

3冊目

ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)

 

これまた超名作、『ぐりとぐら』。ウチの子どももみんな大ファンだった。

 

さて、こうして3冊並べてみると、ひとつ共通点があるのに気づく。おわかりだろうか? どの絵本も「食べ物絡み」なのだ。

 

はらぺこあおむし』は、あおむしがいろんな食べ物を食べまくってお腹を痛め、最後に葉っぱを食べて蝶になる。食べ物のイラストに穴があいていて、それが絵本を貫通しているのがユニークだった。『からすのパンやさん』は言うまでもなくパンがどっさり出てくる。『ぐりとぐら』は、でっかいたまごをカステラにしてみんなと食べるラストが愉しい。あのカステラのおいしそうなことといったら!

 

もちろん「食べ物絡み」の絵本ばかりを親が読ませていたということではなく、こういうシーンばかりが記憶に残ってしまうほど、私自身が食いしん坊だ、ということなのだと思う。我ながら呆れるばかりだが、これがわが読書体験の出発点なのだからしょうがない。ちなみに私は、今も食べることは大好きだ。でも読書と食事の関係は、昔と比べるとずいぶん離れてしまっている。

 

では、問題です。あなたがごくちいさな子どもだったころに触れた本のうち、もっとも印象に残っているものを3冊挙げてください。その3冊に共通するものは何ですか? あるいは、その3冊はどんな形で、今のあなたの中にのこっていますか?

 

#2 呉智英『読書家の新技術』★★★

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奥付をみると1987年初版と書いてあるので、30年前の「新技術」ということになる。読書カードや新聞書評の読み方、スクラップブックの作り方など、時代を感じる部分が多い。またそれとは別に、著者ならではの、というか、新聞記事への揚げ足取りや他の論者への執拗な批判が長くて鼻につく。

もっとも、合間合間に今でもハッとするような読書に関するヒントがちりばめられていて、30年経っても実用性が失われていないのは、考えてみれば凄いことだ。中でも体験に照らして当たっていると思ったのは「読書は500冊読むと『段位』が上がる」というくだり。

ところで巻末のブックガイドは今見てもなかなか面白いが、読書ビギナー向けとしてはちとハードルが高い。カール・シュミット政治学の初心者に勧めるのは、面白いとは思うけど。

 

「家業の豆腐屋を継いだ人は、豆腐屋豆腐屋の論理でちゃんと儲けつつ、知の世界も見る。中小企業をいじめる大企業の幹部となった人は、中小企業をちゃんといじめつつ、知の世界に志を持続する。つまり、近代教養の崩壊後の世界に、近代教養の最も良い遺産を送り届けるのである。これが知のゲリラ戦士の工作であり、要務なのだ」(p.95)

 

※この引用に対して、一言だけコメント。これでは「家業の豆腐屋」や「大企業の幹部」と、読書が切り離されてしまう。知の世界は、自分の生活や仕事と切り離してはいけないと思うのだが、どうだろうか。

 

 

#1 西原理恵子『パーマネント野ばら』★★★★

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古本屋の100円コーナーで売られている本には、どこか切なさがつきまとう。あんたはいらんと放り出された捨て猫のような。失礼ながら、本としての価値を否定されているかのような。でも、そんな「百円本」からも、読書の愉しみは得られるのだ。そんな「百円読書」を、メインブロク「自治体職員の読書ノート」のいわばスピンオフとして、やってみたいと思う。ちなみにここのアドレス、そういう「実験場」としての扱いなので、コロコロ内容が変わる。ご承知おきください。

 

さて、一発目は西原理恵子『パーマネント野ばら』。著者自身が登場しない純粋フィクションだが、港町という設定はあからさまに著者の出身地、高知を思わせる。抒情的といえばそうなのだが、この人の抒情は、ムチャクチャで猥雑でパワフルなサイバラ節と表裏一体の迫力があってあなどれない。海や山の淡い絵柄と、フィリピンパブや美容室の原色ぎとぎとのコントラスト。だが、その原色ぎとぎとの裏側にある切なさや淋しさが、そこはかとない抒情につながっている。

「流した涙のかずだけ、人間は大きくなれるんだよ」

「その言葉がホンマやったら

 この港の女は全員

 300メートル以上の巨人になってますがなー」